鴨田潤

おんなのおっさん – 鴨田潤

こないだあった話なんですが
俺の住んでるアパートに
夜の仕事してるおかまのおっさんがいるんですけど
そのおっさんが女装して、
俺が毎朝使ってるバスに乗って来た。
だいたい朝のバスってもう同じ人ばっかりなんで
おっさん、ひとり目立ってね
近所で会釈するくらいの顔見知りなんですが
こんな二つ隣の駅のバス停で見るとは

おっさん、どこ行くんだろうか?

なかなか浮かばれない
この朝の空気が
いかさま、騙されない
愚か者の奮起で
どうした?
何時もとどうやら違うが
通りを見慣れたバスが横切って

通勤通学詰め込んだ
駅までのバスに乗り込んだ
見慣れた面子とプラス1
見慣れた面子2度見をして

「あれは一体何なんだ?」
「あいつは一体何なんだ?」
「朝から一体何なんだ?」と
思ってるのが目に見えたり

化粧もはげて素性が出た
女の格好のおっさんの羞恥心は周知も承知
まるで教室に犬乱入
背広の足並みを乱した
あいつは一体何なんだ?
あいつは近所に住んでいて
俺はあいつを知っている

噂じゃ夜起きて朝戻ってくるらしい
ちびっ子じゃ判断出来ない性別でもあるらしい
職場では仲間からヒラリー(平畠)と呼ばれてるらしい
故郷は飛び出して二度とは敷居をまたげない
繋がりは3つ下の妹とだけ電話で
でも
珍しモン好き近所でも
付き合いが芽生え始めて
佃煮が好物で
何時かは自分で料理を
作りすぎて思い切って
隣りの家族におすそわけするのが
せめてもの夢
らしいけど
らしからぬな

あいつは
二度とは私生活で
うつむかないと決めたから
泣きたいながらも笑顔で
罵られてもジョークで

あいつは
挨拶だけは一人前
挨拶だけが精一杯
絶やさぬ笑顔で通り過ぎ
すかさず口元をさわって
前歯の渇きを潤して
出会えば灯を灯して
「あの人、何時見ても笑てるけどしんどくないんだろうか?」
いやいや、ちゃうちゃう
ここだけが
そこだけが
唯一
この街との人との接点です
だから
たいそう大切にしてるという話が廻りまわって

なかなか浮かばれない
この朝の空気は
いささかいたたまれない
愚か者の奮起で
どうもね見事に
どうやら乱れて
どうしてこの俺は
少し嬉しいのだろうか

見慣れたバスの車内で
ここでは見慣れぬおっさんが
人混みの中で俺みつけ
人目をはばかりはにかんで
それこそ近所で評判の
小さい笑顔で会釈した

俺も笑顔で返そうか?

俺も笑顔で返そうか

俺も笑顔で返そうぜ

乗ってけ乗ってけ

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