薬師丸ひろ子

寒椿、咲いた – 薬師丸ひろ子

行方知らずの恋人からの
不意の電話に驚きました
これから行くよとつぶやく声に
嫌と言えずに ただうなずいて

寒椿、咲いた
寒椿、咲いた
真っ白な冬に くっきりと咲いた

困っています古い記憶を
消すのに2年もかけて
瞳があえばただ一瞬で
もとのもくあみ 哀しみの底

寒椿、咲いた
寒椿、咲いた
忘れてた頃に 突然咲いた

寒い部屋です 向きあったまま
ため息ばかり凍りつかせて
孤独の奥の雪の野原に
もう靴跡は残さないでね

寒椿、散った
寒椿、散った
芯ごとポトリ 音たてて散った

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