竹原ピストル

  • 悄気る街、舌打ちのように歌がある。 – 竹原ピストル

    四条の橋を渡り行く。人々は、そして自分もまた火薬のように押し黙り四条の橋を渡り行く。 黒々と流れ行く川の水面に遊ぶ、つがいの鯉。嗚呼、悄気る街舌打ちのように歌がある。 先斗町をすれ違う。人と人は互いに通りの際と際に寄りカミソリのようにヒリヒリと先斗町をすれ違う。 靴音に擦れて路の花。華奢な背に負う花言葉。嗚呼、悄気る街舌打ちのように歌がある。 木屋町通りの街灯が点る。つい忘れてしまっていたことをふ…

  • 朧月。君よ、今宵も生き延びろ。 – 竹原ピストル

    返すべき言葉を見つけられないまま、掛けるべき言葉を見つけられないまま、イライラとモヤモヤとサンダルを突っかけ外に出る。湿った夜空の下、寝静まった界隈は、遥かから微かに聞こえてくる踏切の音を虫けらのように黙殺し、微動だにしない。。 朧月。君よ、今宵も生き延びろ。朧月。君よ、今宵も生き延びろ。 返すべき言葉を見つけられないまま、掛けるべき言葉を見つけられないまま、コンビニの駐車場の片隅、灰皿の傍にしゃ…

  • 笑顔でさよなら、跡形もなく。 – 竹原ピストル

    古びた今日を追い立てるようにのしのしと夜が満ちていく。やがて輪郭の限りに街が灯り全ての輪郭に影を生む。 子が親を選べぬように金は汗水の色を選べない。せめて誰かを羨みながらのいじけた酒だけは啜らぬように そちらにとっての裏通りがこちらにとっての表通り分かり合えぬことを分かり合ったら笑顔でさよなら、跡形もなく。 真新しい今日に急き立てられるようにそそくさと夜が褪せていく。寝ぐらを無くした鼻歌が路地のど…

  • 初詣 – 竹原ピストル

    雲から零れた月明かりが老いた桜木の骨を晒す雪にも雨にもなれぬまま手の甲でみぞれが息絶える 始発列車の先端が街のまぶたをこじ開ける酒の燃えかすを腹に揺らし前歯の隙間から唾を弾く 俺はいつまで繰り返すのか!いつまで俺を繰り返すのか!! 爪を丸めたショベルカーが河川敷の隅で拗ねている矢印に並んだ渡り鳥が矢印の方向に空を割る あやふやな足取りは それでももうじき橋を渡り切る嫌みなまでに澄んだ風を頬に閉じ込…

  • せいぜい胸を張ってやるさ。 – 竹原ピストル

    人もまばらな駅のホームに、朝の列車がやってきた。今夜に向かって走りゆく、朝の列車がやってきた。萎んだカバンを胸に抱き、寝ぼけ眼で車窓を覗く。街を去る度に音がする。何かと千切れる音がする。 “分かってたまっか。知ったこっちゃねーよ。分かってたまっか。知ったこっちゃねーよ。。って閉ざしきった足音を重ねてきたし重ねていくんだろうけど せいぜい胸を張ってやるさ。せいぜい胸を張ってやるさ。救いようのない人間…

  • ギラギラなやつをまだ持ってる – 竹原ピストル

    合図と同時に喰らいつくマイク。所謂、バイブス、ヤバいっつータイプッす。あんたの退屈、ひねり潰す、渾身の出し物。何者なのかは関係ないのよ。どーぞ足元見てくれ。但し最後まで居てくれ。痛えくれえ真っ赤な余韻を残してくぜ。俺が竹原ピストル、オールドルーキー。メッキ剥がれてもゴールド純金。 攻め込む為に備わった両脚だ。逃げ走る為に備わった両脚だ。自分を肯定してくれる人間を、ひーこら探し回る為に使うのは能無し…

  • 夏のアウトロ コオロギの鳴く頃 – 竹原ピストル

    “マーブル模様の空の向こうあれよあれよと陽が転がる。” “黄金がかった緩い風がそっと草花の前髪を撫でる。” “木陰に丸まった野良猫がこちらを睨んだまま欠伸する。” “弛んだ電線から飛び立ってやがて鳥達が山に溶ける。” ギターの生えた背中を揺らし脂汗のようにうじうじと旅路を行く。 夏のアウトロ。コオロギの鳴く頃。歩けるだけ歩こう。何はなくとも。 覚悟の出涸らし苦笑いに溶かし細かに細かに街々を徘徊。 …

  • 南十字星 – 竹原ピストル

    己が胸の内と同じ色島の夜道 真夏の夜風熟れ果て爛れたアダンの実虫に齧られ 為す術もない 星に願いを。。“私に願いをください” 動物であることを忘れ“人”であることを持て余し履き古された両足はやがて白銀の浜を踏む 星に願いを。。“私に願いをください” よく考えてみればよく考えたことがなかったよ思い返してみれば思い返したことがなかったよ嗚呼 ばかばかしいほどに天の川溺れて何処 南十字星(はいむるぶし)…

  • とまり木 – 竹原ピストル

    改札口は喧騒を吐き出しこそすれ吸い込まず滞った駅前の眺め その上澄みに解体中のビルの肋骨 抜き足差し足 落ちゆく夕陽季節の果てを報せる風 待つことを嫌い ひとりで待たれることを嫌い ひとりで“ここまでを来れたんだここからを行けないわけがねーさ” L字のカウンターの隅空いたグラス越しに揺れる外国の歌明日に踏み出す寸前の心地良い躊躇に頬杖をつく 半分に割れた白い月痩せた街角に眠る花 離れることをおそれ…

  • あっかんべ、だぜ故郷 – 竹原ピストル

    鈍色の海を縁取りひしめく工場群。痛ましいほど絶え間なく、果てしない律動。散々、風に弄ばれた挙句、結局、雲のわずか手前で力尽きる煙突の煙。 列車は関節を軋ませながら、過去、現在、未来を事細かに縫い合わせる。不発弾のような危うい気まずさに、やがて車窓から視線を引き剥がす。 俺はこの街の嘘を知っていて、この街は俺の嘘を知っている。上手くやれるはずがないだろ。あっかんべ、だぜ故郷。当て付けのように痩せ細っ…

Back to top button