矢野絢子

嘘つきの最期 – 矢野絢子

嘘つきが眠る夜に浮かぶ夢はきれい
草原に落ちる雨の最初のひとつぶみたい
嘘つきが眠る夜に浮かぶ夢はきれい
引っ越した部屋の隅に転がるビー玉みたい
何を映してるのかしら
心配安心音無音

嘘つきが眠る前に映したものはきたない
一つしか面の無い組み立て式の正義
嘘つきが眠る前に映したものはきたない
落ちる前に巻き戻して塗り替えた太陽みたい
どこに向かってるのかしら
心配安心音無音

羽を飾ってプラカードをもった白い群衆
嘘つきの目にチクリと飛んできたそれは
舞い上がる砂利でも割れたビンでもなかった
それは正義か 真実か

ねえどうして本当の事なんか知りたくないくせに
こんな時だけみんな知りたいふりをするの
本当の事は美しいとでもおもっているならお笑い草だね

嘘つきは生まれてから一度も涙を流さず
流さないまま死んで行きました
そうあのチクリと飛んできたカケラが
体中をめぐった天罰でしょうか

誰かがほっとして
誰かが泣きました
世の中なんて
こんなものです

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