清水たま希

  • 花供養 – 清水たま希

    「分かりますとも ひと目みて娘さんだと 貴女のことは」この日は母の 花供養そっと微笑む そのひとの肩のむこうに 揺れる花来てくれましたよ お母さん 季節はずれに この花を母に手向ける 優しさ深さその花 母の 好きな花ひとり通して また守り生きた母にも あった春小さな誇りよ お母さん 坂を下りてく そのひとのうしろ姿に 舞う花びらよ私もやがて 母になる同じこの道 辿ってもそうよしません 後悔はしあわ…

  • 夕月の花 – 清水たま希

    しあわせに なる為の今はまだ まわり道あなたの励まし あればこそ幾坂 この坂 越えた坂生きるに下手な 私でもあなたに寄り添い 生きたいのついてゆきます 夕月の花 人の世の 悲しみを嘆かずに 愚痴らずにいつでもぶれずに 生きているあなたの姿が 道しるべ私でいいの 目で訊けばお酒を注ぐ間の いとおしさついてゆきます 夕月の花 これまでの 永い冬これからの 遅い春あなたと並んで 木漏れ日をうなずき返して…

  • 港の走り傘 – 清水たま希

    いつも港は 出船の匂い昔ここにも いたと云う海に縁ある 人だものそこはもう賭け 最後の賭けとあなた名前の 灯をともし帰り船待つ 浜酒場 手もち無沙汰に 海鳴り聴いて箸の袋で 鶴を折る何があったか 雨の夜訳を教えて 別れの訳を二人へだてる 海峡をいっそ翔んでよ 紙の鶴 二人だけしか 知らない歌が妙に流れる 昨日今日もしやあなたの 合図やらきっとそうよと 翔び出す先にうしろ姿の 人の影濡れて駆け寄る …

  • 花咲小路 – 清水たま希

    お店の提灯 ポツポツと並んで灯ともす その様はハモニカみたいな 口をして浮世の嘆きの 笛を吹く 飲みましょう 忘れましょうとくとく徳利 人の徳飲みましょう 忘れましょう死ぬこと思えば かすり傷 私も女で ありながら夜ふけに酒飲む 寂しがり馴染みのお客の 憂い顔手酌はないわと 世話をやく 飲みましょう 忘れましょうとくとく徳利 人の徳飲みましょう 忘れましょう死ぬこと思えば かすり傷 誰にもこころの…

  • こぼれ灯 – 清水たま希

    ついて来るかと あなたが微笑う見つめ返した 瞳がぬれるまわり道にも 花はあるそんな生き方 したくってこぼれ灯 こぼれ灯…拾う小さな 春の音 いつも気後れ 戸惑いばかり長くその殻 破れぬままにそれもあなたと 今越えて人の一生 決まるのをこぼれ灯 こぼれ灯…わたし見ました 目の中に 風に煽られ すぼめたままの傘もうれしい 夕咲きしぐれ肩の匂いも ぬくもりもこの手伸ばせば そこにあるこぼれ灯 こぼれ灯……

  • 儚な酒 – 清水たま希

    何がしあわせ 不しあわせうんとあるのね 人の世はグラスゆらせば 立つ波もしょせん硝子の 中のこと思い出させて 夜がゆくみんなうたかた 儚な酒 一つ二つは 誰もある拭いきれない 傷のあと浮いて沈んで 漂ってそれも男と また女せめて上手な 引き際は褒めてあげたい 儚な酒 誰を濡らすか 通り雨人はそれでも 生きている夜に泣こうと 笑おうと明日につながる さだめ川恋の涙も 思い出もみんなうたかた 儚な酒 …

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