森ゆに

旅人たち – 森ゆに

過去と未来より 来たる旅人
そっとその目を閉じ 耳を澄ませる
長く影を曳く 強く呼ぶ声
誰も触れられぬ 心より出ずる

闇からの影 水に映す帆
岩陰を通って 走る犬の尾
夜更けに集う 若い恋人
黙って天を見る 年老いた人

過去から未来から 誰もみな時を合わせる
遍く年月の 響きを重ねて

恐れることなく 悲しみを越え
そっとその目を閉じ 耳を澄ませる

誰かを悼む火の 煙る炎 高く高くと
燃え立つ僕はまだ 慈しみの中

船は海をゆく とても遠くへ
過去と未来より 飛ぶ風を蹴って

船は海をゆく とても遠くへ
過去と未来より 飛ぶ風を蹴って

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あなたはあなたで – 森ゆに

暗がりは 怖くはないよと教えたでしょう晴れ着は 持たずに行きなさい重たいから歩みのはじまりの時の扉を 開けましょうあなたはあなたでわたしはわたしでぬかるみに 足

星のうた – 森ゆに

東の空から アンドロメダの微笑みをたずさえ 夜は来るどこから生まれて どこへ消えるの瞬くはサソリの 赤い星憂いは銀河の渦のなかに君とゆうげを囲んでまた明日の 話

白昼夢 – 森ゆに

水色の 風の音耳を撫でたら旅人のまぶたに 魔法がかかるただ 見えるのは雲の影それからパレードの声が聞こえる赤色の ワインにほろ酔いのころ旅人のまぶたの 魔法が解

バラの咲く庭で – 森ゆに

あたたかい ろうそくの灯が私を照らすのでなにひとつ 心配いらない静かに眠れますコデマリの 花が咲いたらいつでも思うでしょう透き通る 白い寝顔は神様のよう飛んでい

夜をくぐる – 森ゆに

夕暮れに目を伏せたなら涙もこぼれましょう夢の終わり消えかける光に影を落としていく荷物を捨ててしまったならどんなにか楽でしょう愛の渇き水を求める鳥は風のように鳴く

瞬き – 森ゆに

水たまりが二人を映して 泣いている白い太陽の 長いあくびに二つの影が伸びていくまでの一瞬に風が背中を 押してゆく風が背中を 押してゆく静かな灯りのなかであなたが

春一番の風は激しく – 森ゆに

匂いいずるちんちょうげの花によいしれる町通りのさま目ざめさなびき朝もや日をあびて 時をまてずああ 春一番の風は激しく見上げいずるもくれんの花にちりそめし白波のさ

一日の終わりに – 森ゆに

ああ一日の終わりにさしかかり私の部屋を死の影が覆うああこの手も足も目も鼻も耳もすべてがあなたのものおやすみよ かわいいひと薄紅の夜明けがまた来たなら半分開いた冬

雨 – 森ゆに

たそがれ時になつかしく あなたを想う待ちくたびれてなお匂う 真夏の静けさ帰らぬ人の恋し 道はぬかるみ歌ったわ 気の休まるまで今にも傾きそう 灰色の空雨だれ 洪水

何をしても – 森ゆに

霧のように夜が空をおおいかくしてあなたの好きな歌をうたう帰り道寂しくて仕方ない新しい服をまとって街を歩けば人ごみを通る風と交わすおしゃべり寂しくて仕方ない懐かし

帽子 – 森ゆに

吹き抜くすきま風白くかたどったうなじの艶っぽさを通り抜けて舞い上がっていく帽子を取る間もなく遠くへさらっていったたまにかすめた黒い雲を越えて消えていくたしかに夏

夏は来る – 森ゆに

あなたのいない空に星はめぐり白い小舟のようにゆられていくあなたのいない海にひとり浮かび真昼のちぎれ雲をつないでいく美しくいられる 薬はなくても夏は来る 夢のよう

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