柴草玲

ヒガンバナ – 柴草玲

男は女を売った
公衆の面前に 面前だけれど秘密の場所に
淫猥なその画面では
あの日の女が笑って ねばつく視線に乳房をさらしている

女はある日それを知った
知ったけれども何も言わなかった
何も言わずに座ってた
座っていたら朝になった

だからそのまま黙って着替えて通勤電車に乗った

やがて時は過ぎ 秋は過ぎ 雨季は過ぎ 邪気は凪ぎ
冬が来て 春が来て 夏が来て また秋になって
男はまだ生きている 女もまだ生きている

男はパソコンの前でつぶやいた
ボクは悪くない そうだよね、ママ
悪いのはボクをコケにしたあの娘だよね

でも次第にやつは忘れてしまった
子供とセダンと妻のそばで
俗物的平和に埋もれた
才能は足りないくらいが丁度いい

だけどそこでは女が今だに年を取らずに喘いでいる

やおら時は過ぎ 秋は過ぎ 雨季は過ぎ 歓喜は無き
冬が来て 春が来て 夏が来て また秋になって
男はまだ生きている 女も多分生きている

ある日 私は見た
街で女を見かけた
髪が少し伸びてた
素足にパンプスを履いてた

彼女は花屋に入って両腕いっぱいの いっぱいの いっぱいの
ヒガンバナを買っていた

やがて時は過ぎ 秋は過ぎ 雨季は過ぎ 邪気は凪ぎ
冬が来て 春が来て 夏が来て また秋になって

男はまだ生きている
男はまだ生きている
男はまだ生きている

女はそれきり見ていない

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