柴草玲

アクアリウム – 柴草玲

造り物の海の底で
その身を静かに翻す魚たち
土曜日の昼下がりに
気紛れで立ち寄ったアクアリウムは

海沿いに並ぶホテルの
帰り道一人現実に戻りたくなくて
走り回る子供たちと
家族の群れに肩を押され
苦笑う私は

ゆっくり順路をたどる
ゆっくり順路をたどる
私だけ繭の中に隠れてるみたい

夕べあなたが 私に宿した
ひとひらの水が 甘く身体を突き剌して
痛い程むごい程 消えずに疼くから
思わずしゃがみそうになる

月並みな言い方すれば
密やかな時間はまるで矢の様で
あなたを感じられるなら どんなに些細な出来事も
悲しみさえも

回遊する魚の群れ
回遊する魚の群れ
造り物の海に私 飲まれてくみたい

夕べあなたが 指でなぞった
ひとつぶの私の涙の行く先を
少しでも少しでも忘れず
覚えててくれるならいいのに

夕べあなたが 私に宿した
ひとひらの水が 甘く身体を突き剌して
痛い程むごい程 消えずに疼くから
思わずしゃがみそうになる

ガラスの海
アクアリウム

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