春組

ぜんまい仕掛けのココロ – 春組

♪とある国のとある街。蒸気によって人々の生活が支えられている時代。
錬金術師ルークは
「法で禁止されているはずのホムンクルス=人造人間を作り出す」

♪さあ完成だ。君の名前は、S!
「マスターおはようございます。ご命令をお聞かせください」
♪命令なんてしないさ。君は僕の友達だ
「困ります。マスターの命令がなくては動けません」

「じゃあ命令しよう。僕の友達になってくれ」
「トモ、ダチ?」
「ああ」
「了解しました」
「ドライだなあ。そうだ握手をしよう。人間の挨拶だよ」

「Sは左利きなのかい?」

「あぁ説明が難しいな」

「S、握手は手と手を握るんだよ」
「手と手。了解しました」

♪違う違う。僕と君の手を、繋ぐんだ

「これが握手だ」
「アクシュ」
「ああ、友達の印さ」
「マスターと私、友達。握手」

「やっぱりツヅルとの漫才は最高ダヨ!」
「いや芝居だわ。心の声までツッコませるって…」
「もうええわ!」
「けど、ありがとうございます。今回、めちゃくちゃ助けてもらって」
「ワタシ何もしてないネ。ずっとツヅルとふざけてたいだけダヨ」

「こんにちは先生!あれ?新しいお弟子さん?」
「やあコルト。彼はS、僕の友達なんだ」

♪僕は先生の弟子コルト!よろしくね、S!
♪マスターの友達、Sです。よろしくお願いします

「痛たたた! 手が砕ける!!」
「握手です」
「力が強すぎるんだよ、S」
「先生、もしかしてSって」
「ああ。でも、僕の友達さ」
「はい、Sはマスターの友達です」
「うん、そっか。さすが先生だ!」

♪ルークはSに色々なことを教え、
「Sはどんどんと吸収していった」
♪ルークはとても楽しそうで、Sも…楽しかった、のかもしれない
「だがこのままでいいはずがないだろう、馬鹿弟子め」

「師匠」
「シショウ」
「S、僕の錬金術の先生で、ボイドさん」
「マスターの友達、Sです。よろしくお願いします」

♪ホムンクルスは国法で禁止されている。あの人形は今すぐ廃棄しろ
「Sは友達です。そんな言い方はやめてください」
「こいつらには人間の感情が理解できない」
「できます!」
♪僕が教えます。僕がSに心を与えてみせます
「やれやれ。お前には錬金術より友達の作り方でも教えるべきだったな」

「語り部と師匠の二役とか鬼すぎ」
「至さんじゃないとできない役なんで」
「綴いつもそれ言うよな」
「ゲームより面白くなってきました?演劇」
「さあね。でも、お前の本は面白いよ」

「マスター、私には“ココロ”がないのですか?」
「そんなことはないさ」
「でも、マスターの師匠はそう言いました」
「君のマスターは僕だ」
「ココロ、とは何ですか?」
「どうしてそんなに質問ばかりするんだ」
「マスター、私にココロを命令してください」
「ココロは命令するものじゃない」
「ですがココロがなければ廃棄されてしまう」
「そんなことはさせない! それよりS、しばらくは外に出るのはよそう」
「それは命令ですか?」
「命令? …ああ、そうだ、命令だ」
「了解しました」

「ルークはSを人目から隠したが、時は既に遅く、
国法警備隊長アルフの耳にSの情報が届いてしまった」

「わが国では人工知能を備えたロボットは違法だ」
「Sはロボットじゃない。れっきとした人間です」
♪機械と人を混同すれば必ず禍を生む
「法はそれを防ぐためにある」
♪ホムンクルスは見つけ次第ただちに
「破壊する」

「その扉は何だ?」
「やめてください!」

「先生、逃げますよ!」

「蒸気だけの爆弾か。これだから錬金術師は。追え! 必ず見つけ出せ!」

「S、警備隊が追ってくる。逃げるぞ」
「逃げる?法律から逃げてはマスターが罪人になります」
「そうしなければお前が破壊されてしまうんだ」
「私にココロがないからですか?私が人形だから」

「諦めろ。機械人形と人間を同列に扱うのは人の傲慢だ」
「傲慢?」
「それは違います! 先生の顔は明るくなりました。Sが友達だからです!」
「友達ごっこだろう。紛い物の友情はここで終わりだ」

「マスター」
「S!」
「S、戦え。ここから逃げるぞ」
「マスターに迷惑はかけられません」
「これは命令だ。君は僕の友達だ。
僕たちの友情は紛い物なんかじゃない!」
「了解、しました」
「S!」

「シトロンさん、こんなに…!」
「一緒に万里くんや左京さんに特訓してもらったんです」
「前より少しはマシになった」
「友達に護身術習ってたから、それが役に立ったネー」
「綴くんの本に応えられるように、みんなで絶対繋ぎます!」
「本番中に泣かせに来るなよ」
「泣くな」
「分かってるよ」

「追え!」

「だがSはこの戦いで大きな損傷を負い、
胸の奥のぜんまい仕掛けがむき出しになった」

「S、その怪我…!」
「問題ありません。私のここにはネジと歯車しかありませんから」
「すぐに研究室に戻ろう。この怪我を治さなくては」
「でも研究室には警備隊がきっと」
「また倒せばいい。このままではSが止まってしまうんだ」
「先生の罪が重くなるだけです!」
「今機能が停止したら、起動してからの記憶が消えるんだよ!」
「マスター、私のねじまきを外してください」

「何を言ってるんだ。そんなことをしたら君は壊れてしまう」
「私が動かなくなれば、マスターはもう追われません」
「駄目だ。僕と一緒に逃げるんだ。これは命令だ」
「命令は聞けません。私はあなたを助けたいのです」
「どうしてマスターの命令が聞けないんだ」
「私はあなたの友達だから、ルーク。
ルークは私に命をくれました。
ルークは私に友達をくれました。
ルークは私に、心をくれました。
私の心が言っています。動けなくなっても、私はずっとルークの友達です」
「そんな…君を壊すなんて、絶対に嫌だ」
「ルークに、外して欲しいんです。他の誰かじゃなくて」
「人間の勝手で生み出されて、壊されるなんて、ひどすぎるじゃないか」
「いつかまた会えます。私も別れは悲しい。
でも、また会えると思えば、平気です」

「ルーク、痛いです。力が強すぎます」
「僕と出会ってくれてありがとう、S」

「ありが……と…う…
ル…ク」

「あの、見逃してもらえませんか? 先生は、その…!」
「国法の遵守、感謝する。非礼を、済まなかった」

「Sを連れていかないんですか?」
「動かぬ発明品を持ち帰るほど暇じゃないんだ。失礼」

「へえ。あの堅物の警備隊長がねえ」
「はい、カッコよかったです」
「で、あいつのケガの具合はどうだ?」
「もうすっかりいいみたいです。今朝も散歩にでかけました」
「あの引きこもりが散歩に? 何かの間違いじゃないのか?」
「あれ以来、先生は随分変わられたんです。まさに青天の霹靂ですよ!」

「こらコルト。大げさなことを言うな」
「あ、先生」
「もうすっかりいいみたいだな」
「おかげさまで」
「ほうねじまきか。趣味の悪いネックレスしてるな馬鹿弟子」
「これは大事な鍵なんでなくさないように。
大切な友達の心を、忘れないように」

♪心の中で生き続ける
大切なものは見えなくていい

♪また会えるように
♪忘れないように
♪刻んだ音がチクタク響く

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