志方あきこ

翅亡キ花 – 志方あきこ

罅(ひび)割れた嘆きも 潰えぬ祈りも
霧の中に かき消されて
心を探っても 確かめてみても
翳(かげ)のように 擦り抜けてく

閉ざされた この世界を
いつの日にか 救い出して

仄明るい 水晶の森に
銀色の鱗(うろこ)が降り積もる

白磁の月 深遠に浮かべ
哀しみを胸に宿した

遥かな水面を 撥ねる虹魚(にじうお)
冷たい自由を 明日に翳して
二人は此処で 何を見上げてる?

どこまで叫んでも 切に望めども
白夜色の蕾のまま
咲き誇ることさえ 散ることさえなく
夢のように 愛(かな)しいだけ

張り詰めた 水の底で
あなたの手を 握り締めた

廃れ果てた 想いの柩(ひつぎ)を
淡色(あわいろ)の貝で 飾りつけて

青磁(せいじ)の間(ま)に 並べた泪は
翅の無い花の幻想

眠れる光が そっと照らすは
静寂揺らめく 刻の旅人
少年はなお 永遠に焦がれ

どこまで歩いても 決して掴めない
幻だと知っていても
しなやかな鎖を 硝子の虚実を
痛みさえも 抱きしめてる

どこまで叫んでも 切に望めども
霧の中に かき消されて
心を探っても 確かめてみても
翳(かげ)のように 擦り抜けてく

鈍色の瞳の奥 私だけを映していて

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