山本美絵

サインポール – 山本美絵

夕方5時の商店街の
道はやけに狭く
やきとり焦げたタレの臭いに
誘われるトラ猫

自転車止めて話す唇
紅い母親達
床屋の前でサインポールは
陽気に回っている
空に昇りたくて

どこかに逃げ出したいのに
平和で 吐き気がする
カバンの底のパスポート
もうすぐ期限が切れるよ

騒がしいパチンコ屋のマーチを
通過電車が消す
改札口から溢れ出した
無口な人の群れ
あきらめた旅人

何かにさらわれたいのに
自由で 眩暈がする
預金を全部下ろしても
ビデオを借りたら帰るよ

今日もまた始まる事も無く
明日をまた嘆く訳でも無く
退屈に何の不自由も無く
忙しいフリをして
ぐるぐる回るだけ

どこかに逃げ出したいのに
平和で 吐き気がする
空まで届けばいいけど
疲れて眠るよ

なんにもできやしないのに
自由で眩暈がする
生まれる為に青い血は
流れを止めずに回るよ

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