安月名莉子

たたくおと – 安月名莉子

ひとり残った中央線イエロー
手をふる男子 その酔った目に
疑ったまま発車した真実を見た?
各駅停車冷房のにおい さよならI see
また会うためとかに赤らんだ肩はだけた服も仕草も選んでないよ
さみしいって感情おもいだそうとしても
東京の感じ ひと駅手前に降りたっておなじ
青紅(あおくれない)明け方グラウンド
とおりすがる よみがえるとおい記憶
空をたたくおと 旗のロープ からん、きん、とアルミのポール叩く音
響けばあの放課後 ノートのすみっこ
メモった舌ったらずのあまいメロディ
きっと未来はきれいだよといったあのこ 透明になっても
僕はまだ期待をうたう ことばにねがいをこめて

千のキラキラ 瞳ぬらしてくmorning glow
その水面に ニセモノ一枚
はばたいた鳥 名前のない命だいてどこへ飛ぶの
物語のセンターを飾った主人公 憧れを抱き 舞台の端 つまさきだち
でも譜面台の五線ノート開こう 書くよ僕のト音記号
時をたたくおと 三階の教室 窓辺の手すりを叩く音
背中の体温と弧 かするてのひら きぬずれまとった真昼の月
世界ぜんぶがきらいと泣いた痛い僕をアメピンで綴じた
君の手はリピートのサイン とけない氷のなかで

雨の季節しのいでも また向日葵 グロテスクな大輪
はさまった葉書の白 ちいさな文字をたぐりよせて答えさがす
まだ言えない ばらばらの地図に浮かび上がった秘密の場所
街の灯にすけてきえるよ

心たたくおと 旗のロープ からん、きん、と僕の心叩く音
おそろローファーかかと リップの残り香
借りっぱ漫画のカバー裏「ありがと」
夕景コンコース 信号雑踏 すれちがった二度とあえないあなたも
すべてのかけらをあつめて 今この場所で僕なりの主役に
きっと未来はきれいだよと 信じた嘘 透明になっても
僕はまた君をうたう ことばにねがいをこめて
永遠(とわ)にねがいをこめて

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