吉田真里子

エチュード – 吉田真里子

今 還らぬ季節の中

憂鬱な坂道を立ち止まっては
靴を持ちかえ 歩いたね
まぶしい木洩れ日や 枯れ葉の音や
予感を包みざわめいた街路樹

手渡された幼い心は
傷つけない術も知らず

初恋はいつだって 残酷なものなの
真剣な瞳は怖いと笑った
時は行き 人を変え こだわりはあせても
そう 消えない 罪の景色ね

何度もすれちがう 偶然の後
初めて言葉をくれた人
右手に抱えた 辞書を隠して
日焼けた腕を まぶしいと思った

声も奪うせつなさに負けた
好きとさえも言えないまま

初恋はいつだって無器用なものなの
花びらの嵐にまぎれた面影
時は行き 人を変え ときめきはあせても
そう 果てない 悔いの景色ね

今 還らぬ 季節の中で

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