吉川ひとみ

  • 冬枯れの駅で… – 吉川ひとみ

    街をセピアに染めて 淡い夕日が落ちる使い古したトランクひとつ 下げて歩いて行く駅の別れはいつも 古い映画のようね人混みの中 抱き合うことも出来ず見つめ合うだけねその手に触れたなら 涙が溢れてしまうから 行かせてそっと背中を向けて 一人改札抜ける白いパンプス 残る靴音 二人冬枯れの駅で… 不意に私の名前 呼んだあなたの声が人の波間にざわめく音に 遠く消されてゆく心切り裂かれても 二度と振り返らない二…

  • 京都 恋炎舞 – 吉川ひとみ

    夜の闇に隠れ まるで逃げるように化野(あだしの)の階段を 二人でのぼる誰にぶたれたって 泣かされたってこの指を離したら 生きてゆけないゆらり ゆらり ゆらり 千の炎ゆらり ゆらり ゆらり 罪を焦がす身体ごと 焼かれてもあぁいいから…あなたが好き たった一度のはず これが最後のはず悪いのは嘘つきは この人じゃないもしも二人ずっと いられるのなら鬼になる夜叉になる 帰しはしないはらり はらり はらり …

  • 妖し花 – 吉川ひとみ

    月の雫(しずく)を 浴びて開く 花びらそうよ あなた一人 想って咲くのよ赤い薔薇より 紅く口紅(べに)を 引くのは今は 他の誰よりも 綺麗でいたいから闇に咲く 花でもいい罪深い 花でもこのままで いられたら不幸でかまわないいいの… あなたの 腕の中で咲きたい 水を下さい 愛の水を 今すぐそうよ 枯れぬように この身を包んで夜にこぼれる 深く甘い 吐息はやっと 逢えた嬉しさを わかって欲しいから闇に…

  • 媚薬~ファム・ファタール~ – 吉川ひとみ

    灼(や)けつく夜の風 水売りたちの声夢の扉(ドア)が開(あ)く 午前零時よドレスを着るように 纏(まと)った香水誰も皆(みな) 行(ゆ)きずりの 異国のエトランゼ恋を買うのなら 夢を買うなら愛の呪文一言(ひとこと) アブラ・カタブラ…灼けつく夜の風 纏った香水情熱にさらわれて 一夜(いちや)のファム・ファタール きらめく銀の汗 ウードの喘(あえ)ぐ音ここはかりそめの 愛の楽園妖しく身をくねる 素足…

  • アッディーオ~愛した街よ~ – 吉川ひとみ

    コートを一枚 脱ぐように気ままな旅に 出るつもり気の合う 女友達に小鳥を一羽 あずけてアッディーオ さようなら 愛した街よ嫌いになった わけじゃないのこんな風に こんなままで終わりたくないだけアッディーオ 旅立つわ 春色の街へ 夜明けが来るまで 駅で待ち南の汽車に 乗るつもり窓から 海が見えたなら別れの花を 投げるわアッディーオ さようなら 想い出たちよ涙の粒は 置いてゆくわ悪いことも 今となれば…

  • 知多半島 – 吉川ひとみ

    愛を失くした 女はきっと涙も失くして しまうのでしょう旅の終わりに 降りたのは夕日に染まる 野間の海あなた あなた あなた…叫んでも想い出すのは 遠い背中だけこれからどこへ 行ったらいいの女ひとりの あぁ 知多半島 何も持たずに 来たはずなのに小さなポーチに 口紅ひとつ誰に見せると 言うのでしょう淋しいだけの くちびるを涙 涙 涙…枯れ果てて泣いているのは 風と波ばかり忘れてしまう 勇気もなくて女…

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