佐田玲子

春の鳥 – 佐田玲子

ひきだしにしまっておいた 出しそびれた恋文は
私からあなたへの 最後の手紙になるはずでした
あんなに深く愛されて あんなにせつなく別れた
書きながら三度泣いて 出せなくて二度泣いた手紙を
今 一枚ずつ マッチで火を灯せば
ふるえる文字が 胸を衝く
本当に本当に あなたが好きでした
春の鳥のように 手紙の白い煙が
まっすぐに 青空に 舞い上がってゆきます
そう丁度 春の鳥のように ようやくあなたから
巣立ってゆきます
明日 嫁ぎます

幼すぎたわたしが あなたと別れたことで
大人になれたなんて 皮肉なものだと思います
親を追う子供のように いつもあなたのうしろを
ついて歩くばかりの 足手まといだったのですから
今 出会ったなら あなたは誉めてくれる
そんな自信もみな あなたがくれた
本当に本当に あなたが好きでした
しあわせになります 約束ですから
まっすぐにまっすぐに 歩いてゆきます
そうきっと しあわせになります どんなにつらいことも
笑える つもりです
大人に なりました

春の鳥のように 手紙の白い煙が
まっすぐに 青空に 舞い上がってゆきます
そう丁度 春の鳥のように ようやくあなたから
巣立ってゆきます
明日 嫁ぎます

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