伊藤久男

別れ来て – 伊藤久男

別れと云えば 君泣きぬ
その面かげが 忘られず
遠く都に 来は来たが
恋しふるさとの あの空よ

夢みし夢は さめやすく
巷の風は 身にしみて
心わびしき 夕まぐれ
涙あふれくる わが胸よ

はるけき空を ながめつゝ
恋しき君の 名を呼べど
君は答えず 夕月の
あわれ影細く かかるのみ

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数寄屋橋エレジー – 伊藤久男

雨に濡れ雨に濡れあの橋に佇ずむ人は 誰を待つ人は変われども数寄屋橋の顔はいつも変わらない来ぬ人は来ぬ人は遥かなる旅に立ちしを 君は知らず夜霧流れても数寄屋橋の顔

君いとしき人よ – 伊藤久男

君 名も知らぬ うるわしき人よ君は しあわせか夜霧の橋に 君待てど街はただふけて ネオンは悲しああ 君ありてこそ たのしきに君 我を捨て 去りにし人よ君は しあ

シベリヤ・エレジー – 伊藤久男

赤い夕陽が 野末に燃えるここはシベリヤ 北の国雁がとぶとぶ 日本の空へ俺もなりたや ああ あの鳥に月も寒そな 白樺かげで誰が歌うか 故国(くに)の唄男泣きする 

母あればこそ – 伊藤久男

ひとりみやこへ 発つ朝も泣いて結んだ 靴のひもああ ふるさとは ふるさとは母あればこそ遠くひそかに 想うもの祭り帰りの 丘のみち声を合わせた わらべ唄ああ ふる

北風三郎の歌 – 伊藤久男

北風三郎は 淋しがりやだ夜中に家の 扉をたたく入ってこいよ 遠慮はいらぬひざつきあわせて 語り明かそうよなんだか今夜は とても寒いね北風三郎は どこに住んでるあ

山国の歌 – 伊藤久男

朝もはよから 遠音にさえて杉もきり出す おのの音もずが鳴くとて 鳴かぬとてどうせさか山 さか落としいかだに組んで わたしゃいかだ師 お前は木こりいつも木の香に 

たそがれの夢 – 伊藤久男

たそがれの 窓をひらき青いランプに 灯をともせばささやきは やさしかったと古い日記の ひそかにもああ夢よほのかなる悲しみよわが胸に流れてやがて消えゆく 愛のワル

あざみの歌 – 伊藤久男

山には山の 愁いあり海には海の 悲しみやましてこころの 花園に咲きしあざみの花ならば高嶺の百合の それよりも秘めたる夢を ひとすじにくれない燃ゆる その姿あざみ

暁に祈る – 伊藤久男

ああ あの顔で あの声で手柄頼むと 妻や子がちぎれる程に 振った旗遠い雲間に また浮かぶああ 堂々の 輸送船さらば祖国よ 栄えあれ遥かに拝む 宮城の空に誓った

イヨマンテの夜 – 伊藤久男

アーホイヨーアー… イヨマンテ熊祭り(イヨマンテ)燃えろ かがり火ああ 満月よ今宵 熊祭り 踊ろう メノコよタムタム 太鼓が鳴る熱き唇 我によせてよ熊祭り燃えろ

ドラゴンズの歌 – 伊藤久男

青雲たかく 翔け昇る竜は希望の 旭に踊るおゝ 溌剌(はつらつ)と 青春の君は闘志に 燃えて起つ晴れの首途(ひとで)の 血はたぎるいざ行け われらのドラゴンズ歓呼

オロチョンの火祭り – 伊藤久男

タツカル オーヌグ ブガコングワーツグフグシ イツトルゼンニヨイラー(アイヤアイヤアイヤアイヤアイヤ)アイヤサー アイヤサーオタスの杜に 陽は落ちて河の流れに 

山のけむり – 伊藤久男

山の煙の ほのぼのとたゆたう森よ あの道よいく年消えて 流れゆく想い出の ああ 夢ひとすじ遠くしずかに ゆれている谷の真清水 汲み合うてほほえみ交わし 摘んだ花

出征の歌 – 伊藤久男

祖国日本よ いざさらば今宵別れの 瀬戸の海おれは覚悟の 旅に立つこころ残りは 無いけれど可愛い妹が ただ一人友よ行末 頼んだぞ夢の浮世の 二十年駒の手綱に 夢覚

恋を呼ぶ歌 – 伊藤久男

あゝ あのひとの名は ミモザの娘緑なす六甲の 山肌に君の名を呼べば 山彦が…………おう エリナよエリナよエリナよエリナよむせび泣く 声が恥ずかしやあゝ はるかな

月の国境 – 伊藤久男

月の国境 小夜更けて腰の軍刀 冴ゆる時秋水三尺 露払う知るや男児の この心石の砦に 攀(よ)じのぼり見れば遙かな 地平線茫漠千里 滔々(とうとう)と行くて知られ

海を征く歌 – 伊藤久男

君よ別れを 言うまいぞ口にはすまい 生き死にを遠い海征く ますらおがなんで涙を 見せようぞ熱い血潮を 大君に捧げて逸る この胸をがんと叩いて 盃にくだいて飲もう

戦友の唄 – 伊藤久男

こゝは北満 広漠千里雨にさらされ 吹雪を衝いて守る国境 空高く 揚げよ日の丸意気は祖国の 誉に燃えて抜けば玉散る 氷の刃(やいば)敵も匪賊も 何のその 倒せ蹴ち

サロマ湖の歌 – 伊藤久男

アーサロマ湖の 水はからいよ青く澄むとも君知るや 君知るや思い焦れて 泣く女の熱い涙が しみてるからよアー恋の鳥 月に嘆くよ哀れ今宵もさい果ての さい果ての暗い

我が家の風 – 伊藤久男

桜あかるい 日本(ひのもと)の民と生れて 伏しおがむ大内山の ふかみどり命たのしや 大君の御為に盡す 我が家の風若い瞳を 輝かせ友は出て征く 太平洋おくれは取ら

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