中島みゆき

  • 心音 – 中島みゆき

    空は信じられるか 風は信じられるか味方だろうか悪意だろうか 言葉を呑んだあれは幻の空 あれは幻の町ひりつく日々も眩しい日々も 閉じ込める夜誰も触れない 誰も問わない 時は進まないでも聞こえてしまったんだ 僕の中の心音綺麗で醜い嘘たちを 僕は此処で抱き留めながら僕は本当の僕へと 祈りのように叫ぶだろう未来へ 未来へ 未来へ 君だけで行け 窓は窓にすぎない 此処に雪は降らない雪色の絵の中の出来事 冷た…

  • 童話 – 中島みゆき

    美しい物語 読み聞かせていた良い夢を見なさいと 寝かしつけていたおはなしのお終いは どれも必ず報われた幸せで 満ちあふれていた目を醒まして見るのは 片付かない結末どうして 善い人が まだ泣いているの童話は童話 世界は世界子供たちに何んと言えばいいのだろうか 勇ましい物語 悪者は倒されて囚われの人々は 救われて いだき合い穏やかな物語 長い旅路の果てたどり着くふるさとで 青い鳥が待っている目を醒まし…

  • 夢の京 – 中島みゆき

    うなされ続けていたね 眠りの外の国では終わりの見えない悲しみごとが 空に横たわっていた眠れる歌を聴かせて 鎮かな花を咲かせて数えきれない涙の上に 粉雪を降らせて心を持つのは人だけ いいえそれは思い上がり鳥は歌う 虫は歌う なのに人は なのに人は樹々は歌う 水は歌う なのに人は なのに人は悲しみを晴らすために 新しく誰を悲しませるの夢の京(みやこ)へ帰ろう もう無い国へ帰ろう時は戻らない 夢は戻れる…

  • 天女の話 – 中島みゆき

    あんた笑いもんにされておるんやで ええのんかってえみちゃんは涙こぼし鼻水こぼして いきどおるあんたあんな嘘いわせて ほっといてええのんかってえみちゃんのパフェはとうに でろでろに溶けてしまった逢いに来てよかったわ 仕事とんだけど心斎橋まで 1時間 低い屋根しかないけれどねえ 夕焼けが綺麗だね人間なんて小さいね 小さいね あんたのは結局のとこ ええかっこしいなんやってえみちゃんは掛けた椅子ごと にじ…

  • 十年 – 中島みゆき

    凍えた並木の下 あなたに初めて会ったあなたをあきれさせる生意気な口をきいた嵐に折られかけた あなたの日々を見てた私はいたわりもせず 薄情に離れていたわざとよ 心の中で波が騒いでたからわざとよ あなたの傍にいるべき人を知ってたから十年は長い月日か 十年は短い日々か恋する者には 無きにひとしい想いだけが ただ咲いていた 並木は枝を伸ばし 緑のトンネルになった二人でいると聞いてたあなたに 再び出会った本…

  • 島より – 中島みゆき

    私たちが暮らした あの窓からは見えなかった星の渦が 騒いでいます浴びるような星の中 心細さも戻りたさも涙も 溶けてゆきます私じゃなかっただけのことね初めての国で 習わしを覚えたぶん忙しく生きてゆけるでしょう島よりとだけしか明かさぬ文はそれゆえ明かすでしょう 心の綾を なるようになるものね 恋人たちは遠回りしてもなお 宿命ならば私じゃなかっただけのことね島では誰でも 子供に戻れる夢を持つ前の 子供に…

  • 有謬の者共 – 中島みゆき

    いくつの夜を 集めても足りないここは隠れ家 息をひそめてる幻の火を 連ねても足りないここは物陰 嘘たちの棲み処隠れて隠れて隠れ続けた逃れて逃れて逃れ続けた真っ新で 真っ直ぐで 真っ暗な空完璧で 潔癖で 鉄壁な空嘘が解れる夜間違えてもニンゲン 間違えてもニンゲン間違うのがニンゲン 誰かがまだニンゲン間違えてもニンゲン 間違えてもニンゲン間違うのがニンゲン あんたがまだニンゲン 時が縺れる 夜へ傾れ込…

  • 体温 – 中島みゆき

    秘かに訊きたいことがあるあたしは不幸じゃないかしらわかってる その答え バチ当たりを言いなさんなって生きてるだけでも奇跡でしょこんなに危ない世の中で体温があるだけで 拾いもんでしょってね悩みごとなら砂の数 砂にまみれて探すのは行方知れずの願いのカケラ 透明すぎて見つからない体温だけが頼りなの体温だけがすべてなの流れゆく移り変わりを 怖がらせないで あなたは確かに他人でもあたしはあなたが懐かしい生者…

  • 倶に – 中島みゆき

    手すりのない橋を 全力で走る怖(こわ)いのは 足元の深い峡谷を見るせいだ透きとおった道を 全力で走る硝子(ガラス)かも 氷かも 疑いが足をすくませるつんのめって 出遅れて 日は沈む 雨は横なぐりだ倶(とも)に走りだそう 倶(とも)に走り継(つ)ごう過ぎた日々の峡谷を のぞき込むヒマはもうない倶(とも)に走りだそう 倶(とも)に走り継(つ)ごう生きる互いの気配が ただひとつだけの灯火(ともしび) 身…

  • ルチル(Rutile Quartz) – 中島みゆき

    ほんとは桜にも心があるのならば私の聴こえない 何を歌っているのほんとは小石にも心があるのならば私のわからない 何を見つめているの何処(どこ)へ飛んでゆきたかったの誰のことを想っていたの 大好きな奴も 大好きじゃない奴もよく似てるあいつも 似てないあいつも誰のものでもない 誰とも代われない水の石の中の ささやかな真実 ほんとは虹にさえ心があるのならば私の及ばない 何を願っているの何処(どこ)へ辿(た…

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