クミコ

スカーフ~時代(とき)の記憶 – クミコ

新しい時代の
モダンな名前の時の病いは
摩天楼の谷間の
テラスでエロスのワルツを踊った
夜明けのことだった
別れの日のあなたの手のひらは
私の頬をつつんで
優しくスカーフを巻いてくれた
ひとりで歩いてゆきなさいと
そのあなたの手のひらは
未来への理想に燃えていた
時代(とき)は変わろうとしていた

どんな思い出よりも
あの時代(とき)の記憶は
別れの朝の青い空
スカーフを結んでくれた
あなたの手が熱すぎたのは
寒かったからじゃない
あなたの手のひらは
未来への理想に燃えていたから
戦争(たたかい)の時代(とき)は始まり
理想に立ち向う者とて
生きる者は生き残り
死ぬものは死にゆく

とてもとても昔の昔の
お話にもならない古いお話
遠い異国(くに)の空から
あなたの便りは届いた
戦いはじき終る
また二人の暮しは始まる
僕らのあたらしい時はくると
二人で生きていこうと
戦争(たたかい)の時代(とき)はやがて終り
理想に立ち向う者とて
生きる者は生き残り
死ぬものは死にゆく

もう誰も知ってなんかはいない
モダンな名前の時の病は
摩天楼の谷間の
テラスでエロスのワルツを踊った
夜明けのことだった
あなたの優しい手のひらは
私の頬をつつんで
ひとりで歩いてゆきなさいと
優しくスカーフを巻いた
そのあなたの手のひらは
未来の理想に燃えて
私をひとりをとりのこして

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