アンジェラ・アキ

目撃車 – アンジェラ・アキ

銀行マンになって二年目に
今までの生活をアップグレードした
シルクのスーツに高級レストラン
学生時代の地味な恋人にもとうとうさようなら

周囲の目を引く派手な女(ひと)と
つきあうようになって更に背伸びをした
こんな古いもの 恥ずかしいからと
親にもらった大切な車を
ためらいもなく買い替えた

車は静かに見ていた
人が少しずつ変わっていく姿
豊かさとはブランドの勲章じゃなくて
取り引きのできない品格の事だと
痛みと共に学ぶ日が来ると
車だけが知っていた

次に車を買い取った家族
喧嘩の絶えない親と幼い兄弟
「バカ」や「うるさい」 親の口癖を真似る子供が
初めて聞いた言葉 「離婚」ってどういう意味なの?

車は静かに見ていた
子供が犠牲者になっていく姿
親の間違いを子が背負う運命など
不条理だけどそれも人生と
車だけが知っていた

中古の店にしばらく並んだ車を
老夫婦がある日買っていった
最近二人でよく出かけている
次第に会話が弾み
冗談までも言えるようになっていた

車は静かに見ていた
無口の夫婦が笑顔になる姿
歩み寄れず すれ違う時期もあったけど
秘密もたくさんと作ったけれど
互いの味方であり続けた
いつも味方であり続けたと
二人だけが知っていた

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