十月のある木曜日 — 大塚まさじ

何をすることもなく 狭い部屋を右左
プレイヤーのレコードは変わることなく静かに回る
サキソフォーンにベース ピアノとギターにドラム
夕焼のジャズの波の中で耳をすましても声は聞こえない
今日も何一つ唄い出せず ただタバコをふかすだけ

夜の暗さと月のあかりが 夕暮につられてやって来る
路面電車のきします音が 俺を南の街へとさそう
いつもここにいたような気がする法善寺の路地裏
あやしげなキャバレィーでは もう若くない女達が客を送ってる
今日も何一つ唄い出せず ただ街を流して歩くだけ

背広姿の男達は もう酔っぱらい家路をさがしてる
俺はいつもの飲屋にとび込み 店の女の子にあいずを送る
誰もが自分の安全地帯で わがままにわめき合ってる
今夜も淋しさをいやす場所には 人があふれ絶えることがない
今日も何一つ唄い出せず ただ酔っぱらっているだけ

店からしめ出された人達が 暗い通りにあふれてる
女達の酔っぱらった声が 心斎橋にひびいて消えた
あかりが一つずつ消えてゆく最終電車は もういない
“明日こそは”に もうとっくに いや気をさしてる俺達さ
今日も何一つ唄い出せず ただ夜がふけてゆくだけ

ただ夜がふけて行くだけ