鬼火送り – 伊藤敏博

宵のひぐらし 蝉しぐれ
登る石段 影ひとつ
城山に 草の香深く夏が来て
あなたが 愛した 野あざみを
手折(たお)りて 捧ぐ 鬼火送りに

時はもどらず 移り行き
嫁ぎ行きます この秋に
人ごみを 離れてひとり火を放つ
燃える手紙に 手をかざし
もれる温もりに 別れ告げます

鬼火送りも 終り告げ
浜辺いつしか 私だけ
波の間に ゆれる灯
追いかけて ゆかたのすそが
波にぬれても あなたの名前
漁火に呼ぶ

届かぬ人に なってしまって
待つことさえも 叶わぬあなた

ゆかたのすそが 波にぬれても
あなたの名前 漁火に呼ぶ