罪なき罪を 身にうけて心ならずも 筑紫野に配所の月を 仰ぐともいかで君を 忘るべき思い出多き 名月を今宵異郷の 空に見て聖寿を祈る 忠誠のきこえんをりは いつの日ぞ去年ノ今夜清涼ニ侍ス秋思ノ詩篇独リ断腸恩賜ノ御衣今此ニ在リ棒持シテ毎日余香ヲ拝ス君恩慕う 断腸の詩(うた)を吟じて 袖濡らす夜更けの窓に 雁啼けばそぞろに恋し 去年(こぞ)の秋
桜見よとて 来て見れば誰がちらかす 黄昏のむかし恋しい 振袖に花が散ります 舞い扇恋の分里(わけざと)武士も道具を伏編笠(ふせあみがさ)で張りと意気地の吉原花の都は歌でやわらぐ敷島原に勤めする身はだれと伏見の墨染…散るが花なら 怨(うら)まねど女ごころの はかなさを思い出せとて しみじみと鐘が鳴ります 道成寺
花の明治の思い出はなびく柳のコンパルやもえる開花の瓦斯(ガス)灯に大川端の夜の雨吹けよ川風 あがれやすだれなかの小唄の 主見たややんれ島田くずしの柳橋粋な人馬車夜会髷すいはどなたのおちうどとおつな姿 めがね橋ホレッオッペケペーのペーとさで玉屋が縁かいなったらストライキでどんどんあずまコートに お高祖頭巾でちんちん鴨なら 雪見酒昔 恋しい 明治じゃえ
江差恋しや 追分月夜すさむ思いも 流れて消える波によ 波に ほのかなえー 夢がふく泣くな尺八 港の夜風遠い故郷を 思わせるよな沖のよー 沖のかもめもえー 恋のうた波ははてなく 情はうすくながす浮名に 渚はうるむ今宵よー 今宵なごりのえー 月が出る
砲煙天に 渦まきてああ鶴ケ城 落ちたるか心は千々に はやれども折れたる剣を 如何にせん死をもて戍(まも)る この堡塞(とりで)ああ破れたる 無念さよ主君に殉ず 他なしと覚悟を定む 十六士少年団結ス白虎ノ隊国歩艱難堡塞(こくほかんなんほさい)ヲ戍(まも)ル大軍突如トシテ風雨来(きた)リ殺気惨憺白日暗(さんたんはくじつくら)シ飯盛山の 頂きをああ血に染めて 散りたれど忠烈永く 香をこめて誉れを残す 白
咲いたとて 咲いたとてどうせ冷たい 風ばかりそっと震えて 開いて見たがうすい運命(さだめ)のわたしゃ白菊 悲しい花よ泣いたとて 泣いたとてどうせ届かぬ この思い人に知られず 涙の露にひとり濡れてるわたしゃ白菊 淋しい花よ散ればとて 散ればとてどうせ浮世に 染まぬまませめて抱いた はかない夢をこめて薫ろかわたしゃ白菊 嘆きの花よ
あの夜の夢は あの夜きりわたしゃ忘れた 筈なのにえー いじわるな いじわるな思い出させる おぼろ月涙に濡(ぬ)れた ほつれ髪三筋(みすじ) 四(よ)筋を かみしめりゃえー やるせない やるせないしのぶ心が また泣けて招くな恋し 遠あかり呼ぶな渚の 波の音えー つれなさよ つれなさよ風のたよりも ききあきた
飽かれも 飽きもせぬものを義理にせかれて 旅の空笑顔つくれど 笑顔のかげにいつかこぼれて 散る涙ひとりで解けば すすり泣く君が好みの 青い帯まして寝ざめの 寂しさ辛さ星よなぜ呼ぶ あの空で流れの旅の 浮き沈み誰にすがろか 身の果をやるせ涙で 白粉とけば肌につめたい 夜の雨
露の命を 朝霧に泣けば涙で 眼は見えぬ誰をたずねて 行く空の娘朝顔 花の朝顔いじらしや琴の爪さえ はらはらと雨になるやら ならぬやら弾(ひ)けば情けの その糸のつきぬ縁(えにし)の つきぬ名残りの胸のうち跡を慕うて 五月雨のおつる水さえ せきかねて娘心の 一筋に呼ぶは千鳥か 啼くは千鳥か大井川
桜ほろ散る 院の庄遠き昔を 偲(しの)ぶれば幹をけずりて 高徳(たかのり)が書いた至誠の 詩(うた)がたみ大君(きみ)のみ心 安かれと闇(やみ)にまぎれて ただひとり刻む忠節 筆の跡めぐる懐古に 涙わく天莫空勾践(てんこうせんをむなしゅうするなかれ)時非無范蠡(ときにはんれいなきにしもあらず)風にさらされ 雨に濡(ぬ)れ文字はいつしか 消えたれどつきぬ誉(ほまれ)の 物語永久(とわ)に輝く 花のか
恋の編笠 紅緒で締めて月の街道 ひとり旅流す新内(しんない) 三筋(みすじ)の糸につけて淋しい 月灯り夢に通えど 愛(いと)しい人は別れ別れて 三年(みとせ)越しなぜにあの日の 形見にくれた抱いて泣きましょ 房扇知らぬ他国の 町から町へ旅はいつまで 続くやら山の入陽(いりひ)に ついつまされていつか乱れる 撥(ばち)さばき
花の散る日も 月の夜も遠い父母(ちちはは) 恋しさにぬれた涙の 笛の音(ね)もいつかいとしい 夢となる娘心の はあー夕まぐれ生きてこの世に ただひとりわしの命は 武蔵さま明日はたえいぬ この胸にせめて妻よの ひと言をきいて行きたや はあー旅の空
なびきゃ極楽 すねれば地獄渡る浮世の 裏おもて投げたかんざし 笑顔でうけたにくい仕打ちが なぜ可愛男嫌いが 男に惚れて末はあだやら 情けやら思い込んだら 命が的よどうせ捨て身の 綱渡りどこか似たようで あと振り向けば土手の柳に おぼろ月恋の折鶴 心に抱いてひとり泣くのも 女ゆえ
渡り鳥 風に吹かれていつの日 帰るやらあの人も 旅の鳥今日はいずこのいずこの空を 行くやら淋しさよ 山の娘は夢さえ ままならぬあの人に 知らしてね今日も私は私は 泣いているのよ馬子唄に 浅間日暮れて小諸の 灯は哀しあの人は 旅の鳥今宵この月この月どこで 見るやら
悲しい時は 窓をあけあなたの名前を 呼びましょかそっと夜風に 消えてゆくどうせとどかぬ この思いああ それでいいのよそれでいいのよ それだけよひとりで強く 生きてゆく冷たい女と 言うけれど燃ゆる血潮は あるものとどうせ知られぬ この心ああ それでいいのよそれでいいのよ それだけよくちびるじっと かみしめて化粧でかくした 泣きぼくろどんな涙で とけるでしょどうせ小声で 呼ぶ名前ああ それでいいのよそ
義理と情(なさけ)の 両花道で迷う心の 行き戻り女形(おやま)悲しや 紅白粉(べにおしろい)に交(まじ)る涙が 身にしみる一筋に思う お徳のまごころにひかれて我も 名門を捨てて浪花の 侘住居(わびずまい)のれんの菊も 色あせて恋のまぼろし 心に秘めてあわれ浮世の 残り菊
国を出るとき よろずの神に立てた誓いが 伊達(だて)じゃろか国のためとて 満州の野辺にかねて覚悟は 野晒しよ赤い夕陽が 胡沙(こさ)吹く風がなんで今さら かなしかろ大和ごころは 男の意気よ弾丸(たま)の吹雪も なんのその燃える心は 祖国のために花と散る日を 願うまでさっさ散れ散れ 晴がましくもこの身花(みはな)なら 男子(おのこ)なら
絵日傘さして 傘さして舞妓だらりの 帯しめてからりころりと 三条の橋のたもとの 糸柳糸は乱れて さらさらと傘にたもとに ゆれかかる加茂(かも)の川瀬(かわせ)の 水の音きいて何やら 夢心地何処(いづこ)の空に 流れゆき誰に買われる 運命(さだめ)やら花の絵日傘 くるくると泣いているよな 京人形