平松愛理

南町から – 平松愛理

春には海に近い校舎で
記念のスナップにVサイン
離宮公園の桜たち
くもった日が鮮やかで
グレイのキャンバスに
夢は咲くものと
教えてくれたはずなのに

ありふれた毎日があたりまえじゃなくなる
こんな日がくるなんて
何気ない一言がさり気ない微笑みが
こんなに暖かくて
まだ見ぬ薄紅の花びら
もっともっと
あの日へと置き去りの人の夢
咲き誇れ

夏には波打ち際走った
遠くで母の呼ぶ声がした
須磨海岸で陸サーファー
気取る頃気がついた
寄せる波が傷
ひく波が時間
そして去ってく 人生のように

あといくつ波くればどれだけの時経てば
痛みおさまっていく
どんな偉い学者でも有名な政治家も
心までは量れない
小さな無数の引き潮が
そっとそっと
いつまでも乾かない深い傷
さらってゆけ

秋には山へ落ちる夕日が
焦がした初めての恋心
お揃いのシャツで三ノ宮
けれど顔さえ見れず
真っ赤な六甲を
背に港へ続く道歩いた
黙ったまま

どこにいてどう生きても何をどう失くしても
思い出は変わらない
きんもくせい咲く季節めぐる度甦る
蒼かった日々のこと
神さまでさえ消せはしない
ずっとずっと
かけがえのない記憶自分だけの
History

冬には聖歌隊に混じって
異人館通りでアヴェマリア
山手教会のクリスマス
空届きそなもみの木
積もりはじめる雪は
すべての罪を
許してしまう最上の愛

捨てるはずのなかった果たすはずの思いが
天国で雪になる
希望へと向かった時もう一度愛になって
すべての人に降るの
新しい生命のうたになる
きっときっと
強い町になっていく故郷へ
届くように
人生の道しるべ はじまった
南町へ

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