三日月の女神 — 谷山浩子

きみの中の商店街を きみがひとり歩いていたら
きみの中の駅前の きみの中のキオスクのかげで
とんでもない不吉なものが きみをじっとねらっていた

それは三日月 暗い目つきの月
ほんとにいやな目つきの
きみのあとをついてくる きみの中の路地から路地へと
さてきみはついに袋小路 どこへももう逃げられない

ほら、いやな気分だね ほら、月が憑いてしまった
暴れてももう遅いよ きみは今夜
ヨコシマな月の女神になった
ヨコシマな月のヨコシマな女神

きみの中の商店街を きみはひとり歩いているよ
きみは不意に憎んでいる きみの中の公園のハトを
なぜそんな害のない 弱い 何もしないハトのことを?

きみは三日月 暗い目つきの月
ほんとにいやな目つきの
きみの中で焦げるハト きみの中で焦げる麦畑
街が焦げる 炎も上げず じわじわとただ焦げていく

ほら、いやな気分だね ほら、自分の心臓を
投げ棄てたいような そんな気持ちなのに
ヨコシマな月はずっと三日月
ニセモノの月はまるくなれない

何かが狂ってる きみにはわからない
何かが狂ってる きみにはなおせない

何かが狂ってる もう誰もきみを好きじゃない
何かが狂ってる もう誰もきみを愛せない